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生活が苦しい時代の「消費のつくり方」。「SKⅡ」が高級スキンケア市場を拡大する背景

消費者が“お財布のヒモを緩める”商品とは

日本の人口は、年々縮小しています。その流れは、これからも止まりそうにありません。

 そして、大金持ちの方は別として、私たちの多くは限られた予算の中で生活していています。最新の国民生活基礎調査(平成28年)では、生活意識が「苦しい」とした世帯は 56.5%になります。

 人口は減少し、2人に1人は今の生活ですら「苦しい」と言っている中で、新しい市場を創造したり、市場を拡大したりできるのでしょうか。

 生活が苦しいと言われれば、商品やサービスを何とか安く提供しようと考えがちですが、その場合は競合同志の価格戦争で「市場が縮小するリスク」に気をつけなければなりません。

 そこで「より安く」と考えるのではなく、苦しい生活を少しでも楽しくできるような商品やサービスを提供しようと考えると、新しい市場を創造するチャンスが広がるのではないでしょうか。

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私たち自分自身のお金の使い方を振り返ってみても、苦しい生活の中でも、お財布のヒモを「締める時」と「緩める時」があると思います。

 では、どのような時にお財布のヒモを締め、その逆にヒモを緩めるのか、ご自身のお金の使い方を思い返していただくと、面白いかもしれません。

 私は、長年さまざまな業界で仕事をしてきた経験から、人は必要経費に関しては「何とかして節約しよう」とお財布のヒモを締める傾向があるのに対して、必要とは言えないかもしれないモノやコトに関しては、お財布のヒモを緩める傾向があると見ています。

 生活は「苦しい」のに、必要でもないのにお財布のヒモを緩めてしまうモノやコトとは、何でしょうか。

 多くの場合、それは「苦しい」生活を少しだけ忘れさせてくれる、“ちょっとした楽しみ”を提供してくれるモノやコトだったりします。

 例えば、旅行など観光産業は伸びています。

 観光庁が2018年1月16日に発表した「2017年訪日外国人旅行消費額(速報)」は4兆4161億円(前年比17.8%増)で過去最高となりました。

 外国人にとって、日本という国が“ちょっとした楽しみ”を提供できるモノやコトに満ち溢れているからこそ、多くの観光客に来ていただき楽しんでもらえていると言えます。

スマホゲームに数百万円課金する人の心理

かっこよくなりたい、きれいになりたい、モテたい、強くなりたい、勝ちたい、褒められたい、崇められたい、いい家に住みたい、いい車が欲しい。

 人は、こうした何かを手に入れたいという権力欲や承認欲、達成欲、物欲、収集欲など多くの欲を持っています。しかし全ての「欲」を満たすことは、金銭的にも社会的にも現実にはなかなか難しいことです。

 そうした中で、それらの「欲」を非現実空間で味わうことで、「苦しい」現実生活とは別のパラレルワールドを生きることができる、そんな場所を提供したのがスマホゲームでした。

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 中国で成功しているスマホゲームの中にはVIPシステムという「ゲーム内の特権」を販売しているものがあります。

 お金を払うことで、ゲーム内の位が平民から労働者、中級VIP、王様VIPへと昇格して、ゲームによっては数万円から数百万円を課金することで最高ランクの「神様VIP」の特権になることができます。

 王様や神様のレベルになると、あらゆるもの(キャラ、武器、能力など)が最高級になり、ゲーム内では勝ち放題です。そんなゲーム内のVIP特権を高額で購入しているユーザーは、必ずしもお金に余裕のある人とは限りません。

 現実生活は苦しい中、ゲームというパラレルワールドで、強い自分・勝つ自分を楽しむために、現実生活は節約してでもゲーム内でお金を使うというユーザーが多くいるのです。

 お酒やタバコ、アイスクリームなどの嗜好品なども、“ちょっとした楽しみ”を提供してくれます。車や住まい、インテリアなども、ちょっと楽しいモノやコトです。

 そして前回、ご紹介した柔軟剤も、多くの商品が“ちょっとした楽しみ”を謳っています。

 15年前、衣類を柔らかく仕上げる製品であった柔軟剤は、レノアの発売で「着ている間のにおいを防ぐ」製品に発展し、今では「着ている間に香って、日々をちょっと楽しくしてくれる」製品に進化したのです。

 私が経験した柔軟剤の進化の過程は、市場創造・拡大のヒントだと考えています。

P&G「SKll」は、なぜ市場創造できたのか

商品開発は、まず「満足できていないニーズ (UNMET NEEDS) を探りだす」ことから始まると言われます。

 しかし、ニーズがそこそこのレベルまで満たされている市場では、まだ満たされていないニーズを探り当てようとするよりも、ユーザーは全く必要としていない(つまり、そこにニーズはない)ところに、「ウオンツ(WANTS)」を創りだせれば、市場創造・拡大への切り口になると思います。

 私が使っている「NEEDS」と「WANTS」という言葉の違いは、「今、必要かどうか」です。今、必要なモノやコトは、既に多くのユーザーが利用しています。なぜならばそれらは「必要」なのですから。それら必要なモノやコトを利用している中で出てくる「もう少し●●だったらいいのに」とか「こういう機能があればいい」という感想や欲求が 「UNMET NEEDS」です。

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それに対して、あったらいいかもしれないけど、利用していないモノやコト、必要ないと思われているモノやコト、諦めているモノやコトを「今、必要なもの」に変えることで「WANTS」が創られます。数年前に流行語大賞となった「今でしょ!」は、「WANTS」を喚起することで市場を活性化させた名言だと思います。

   P&G時代に私が担当した高級スキンケア化粧品の「SKll」はWANTSをつくり出し、「今でしょ!」で市場拡大に貢献した商品のひとつと言えると思います。

 「SKll」は、数年前まで「肌を回復し、維持してくれる」スキンケアとして40~50代以上の女性に絶大なる人気を誇っていましたが、若年層ユーザーの獲得に苦戦していました。

 若年層の女性の肌は、高額スキンケアを使わなくてもすでに美しく、高額な費用をかけてまで何とかしたいと思う、「UNMETE NEEDS」は存在しなかったのです。

 「SKllは、いいと思うけどまだ早い」「40代になったら考えます」という若い女性に今、「SKll」を使っていただくためのWANTSをつくり出したのが、「Change the Destiny 運命を変えよう」というキャンペーンです。

 このキャンペーンは「今、SKllを使い始めることで、未来の肌の調子が違ってくる」というコンセプトで、「(今はきれいでも)年をとったら、肌は衰えていくのが当然である」とあきらめていた若い人たちに「あきらめたくない、年をとってもきれいでいたい。今すぐSKllを使い始めたい!」と思っていただくWANTSをつくり出しました。

https://www.sk-ii.jp/our-product

このキャンペーンによって、困っているわけではないけれど、今使うことで未来が変わる。「SKll」が「夢と希望」という、ちょっとした「楽しみ」を提供することができ、そのお陰で、多くの若いユーザーから支持を獲得し、高級スキンケア市場が拡大したのです。

 みなさまも、現在担当している商品の市場がどのような段階にあるのか分析し、その上で「UNMETE NEEDS」や「WANTS」を探ってみてはいかがでしょうか。

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