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私は幸いなことに、市場でイノベーションを起こしてヒット商品を生み出すという成功体験を何度かさせてもらいました。それらを実現できた背景には、それまでの既成概念を覆すような新たな発見があったと思います。
私が長年勤めたP&Gでは、イノベーションにつながる発見は、意味のあるデータや情報(点)をつなげて新しい概念を発見すること、つまり「Connect The Dots」が重要であると教わりました。
「Connecting Dots」という言葉を聞くと、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズによるスタンフォード大学の卒業式辞を思い起こされる方が多いかもしれません。私もそのスピーチが大好きで、何度も聞き返しては感動しています。
先を見通して点をつなぐことはできない。
振り返ってつなぐことしかできない。
だから将来何らかの形で点がつながると信じることだ。
何かを信じ続けることだ。
直感、運命、人生、カルマ、その他何でも。
この手法が私を裏切ったことは一度もなく、
そして私の人生に大きな違いをもたらした。
(Steve Jobs 2005年スタンフォード大学卒業式辞から抜粋)
彼がスピーチの中で使っている「Connecting Dots」は、過去を振り返ってつなぐことによって見えてくる、それぞれの点(人生における出来事)の意味の深さです。
スタンフォード大学を中退した彼が、今そのスタンフォード大学の卒業式辞を述べる立場にいるという因果。中退したため聴講生として受けたカリグラフィーの授業のおかげで、マックにスタイリッシュな要素を取り入れることができたという経験。アップルを創業したにもかかわらず、一度追い出され、そしてまた呼び戻されて経営再建に関わっているという因縁。人生における挫折や苦しみとも思われるすべての出来事に意味があり、今につながるための必然であった。だからこそ、大きな困難や挫折にぶち当たったとしても、その経験は必ず将来の何かにつながると信じて生きることが大切であると語るのです。
では、イノベーションにつながる、新たな発見のための「Connecting The Dots」とは、どのような意味でしょうか。
それは、点と点の“新たな”つながりを見つけることだと考えます。
Dots(点)は、ひとつの事象やデータを指します。Connecting(つなげる)とは、それらをつなぎ合わせて新しい概念を発見することを指します。つなぎ合わせる点(事象やデータ)は、必ずしも新しく発見した点でなくても、以前からある既存の点であってもかまいません。何よりも重要なことは、課題解決の糸口となるような新たな組み合わせで「つながり=ストーリー=新説」を見つけることです。
P&Gが開発した柔軟剤「レノア」が市場を2倍に拡大できた背景にも、それまで気づかれていなかった「新しい概念」を見つけたことがありました。レノアの発売前は、柔軟剤市場は昨年対比90%の勢いで縮小しており、競合各社は「柔らかさ」と「安さ」を競い合い、市場縮小に拍車をかけていました。ユーザーは柔軟剤に対するロイヤリティーを失い、「安ければなんでもいい」という風潮から「安くなければ買わない」「柔軟剤なんて別に必要ない」という存在へと格が下がりつつありました。
そんな中でP&Gは、本来ならば「洗剤」が担うべき効能と考えられていた「消臭」を柔軟剤に与えることで、消費者に受け入れられ、喜んでもらえることを発見したのです。
この「新しい概念」に至るまでには、膨大な量的・質的データを収集し、それらの情報の中から特に重要なデータ(点)のみを抽出して、それらをつなげることで「柔軟剤の効果を洗濯物を柔らかくするだけに絞らず、消臭効果も柔軟剤にもたせよう」という新しい概念をつくり出しました。
では、どうすれば、つなげるべき重要な点と無視すべき重要でない点を判別できるのでしょうか。
「日本人の長寿の秘密は、生の馬肉を食べることにあった」
これはロシアのWebメディアで紹介された「宇宙人のような日本人」というニュースです。長寿の秘密が馬肉にあったことが事実であれば、まさにイノベーションです。不老長寿を熱望する世界中の人々に馬刺しを提供するビジネスが実現できるかもしれません。
ところが「日本人の長寿の秘訣が生の馬肉だ」という話は、私たち日本人にとってはツッコミどころ満載で、一笑に付すような話です。
この新説はどのようにして発見されたのでしょうか。おそらく「日本では生の馬肉がよく食べられている」「馬刺しは豚肉や牛肉よりも体によい(大腸菌がうつる恐れはほとんどなく、タンパク質を豊富にふくみながらカロリーも低い)」「日本人は世界一長寿である」という3つの事象を因果関係でつなげて生まれたのかもしれません。
このロシアのニュースは笑い話にできますが、実は、実際のビジネスにおいてもこれと同じようなことが起きている可能性は多いにあるのです。
ターゲットユーザーのインサイトは「これだ!」と当たりをつけて導き出した新説が当事者には全く響かないどころか、意味も分からなければツッコミどころ満載になってしまっているというケースは、よくあるからです。
先ほどのロシアのネットニュースの新説が的を外してしまった理由は、いくつか考えられます。まずは、つなげるべき点(データ)の収集の間違いと、点と点をつなげてできた仮説(ストーリー)の検証に、当事者(日本人)を巻き込んでいなかったことが挙げられると思います。
推測ですが、この記事を書いたロシア人は「日本人は馬の肉を生で食べる!」という事実にひどく驚いたのでしょう。そして、「馬の肉は、生で食べても大丈夫なのか?」と疑問を持って調べると、「馬肉は牛や豚よりも体にいいらしい」という情報を得たはずです。そのときに、「日本人の驚異的な平均寿命」を思いだし、これらの驚くべき3つのデータを因果関係でつなげたのでしょう。
データ収集に関しては、このロシアのニュースの例に限らず、実は目的や課題に関係のない事象を重要データとして取り扱って因果関係や相関関係として説明付けてしまったがために、ターゲットにとっては全く「的を得ない」結論になることがよくあります。
意味のあるインサイトを探ろうとしてデータ収集をする時に大切なのは、「目的に対して解決するべき課題をまず定める」ことです。何を解決すべきか不明確なまま、ユーザーをリサーチしたり、競合を研究をしたりしても無益にデータ量を増やしてしまい非効率です。
例えば、「今から情報収集・分析をする目的は、新しい不老長寿ビジネスのヒントとなる、日本人の長寿の秘密を探ることである」と、目的が関係者全員で明確に共有されていることが何より重要なのです。
目的と課題が分かれば、どのような情報を収集すべきかが明確になります。長生きしている日本人とそうでない日本人の生活習慣を比較したり、インタビューやアンケートをとったりして、データを収集しようということになるかもしれません。そこで「長寿の日本人は、長寿ではない日本人に比べて、馬刺しを食べている率が高い」という事象(点)が発見できて初めて「馬刺し」がひとつの点として可能性を持つわけです。
ロシアのネットニュースから考察される、意味あるインサイトを探る際の2つ目の問題として、点と点との間に新たなつながりを見つけた(仮説が立った!)と思われた時に、当事者に確認をとらず、独りよがりで収束してしまったことが挙げられます。
意味あるインサイトを探る目的は、実際にターゲットとした人たちの潜在意識に響き、新たな購買行動や消費行動などに誘引することにあるので、仮説が当事者の心に本当に響くのか否かをチェックするのは不可欠です。
ネットニュースに流す前に、近くの日本人何人かに「この仮説はどう思う?」と聞いていたら、ほとんどの日本人は「うーん・・・ちょっと違うと思う」と言って、別の仮説や可能性を教えてくれたかもしれません。
最後に、データ収集をする時も、新しい概念の仮説を立てる時も、ターゲットに対して仮説検証をする時も、常に絶対に気をつけなければならないことは、自分の色眼鏡を外して、バイアスをかけずに判断するということです。「自分が思い込んでいる概念を外さなければ新しい発見はないのだ」「自分がまだ知らない新しい概念については、自分は全く何も分かっていないのだ」という謙虚な気持ちで、できるだけ思い込みを外そうという意識が重要なのです。
「多分こうなんだと思う」「これが答えだ」「そんなはずはない」「こんなデータは信じられない」など思い込みが強いと、素晴らしいデータや新説をいとも簡単に見逃してしまいます。主張が強く、人の話を聞けないタイプの人は、特に注意が必要です。イノベーションを起こすには、新しい概念が必要です。そして、新しい概念に行きつくには、「新しい」ものの見方や考え方を取り込む必要があり、自分と違うものの見方や考え方を真剣に傾聴して理解しようとすることが不可欠です。
「Connecting The Dots」。自分が“これはこういうもんだ”的な「べき論」でずっと思い込んでいるものごとの因果関係や相関関係をくつがえすような、全く新しい点と点の結びつきを見つけられた時、リミッターが外れて、大きなイノベーションを起こせるのだと思います。
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