COLUMN

コラム

P&Gイノベーションファクトリーが最重視する「客観的多様性」

私は、P&Gジャパン全体のイノベーションファクトリーの工場長を務めた時期がありました。

ファブリック&ホームケア(洗剤・消臭)カテゴリーとヘアケアカテゴリーで、いくつかのイノベーション創造を成功した経歴を買われてのことでした。

 当時、P&Gは洗剤・消臭やヘアケアの製品だけではなく、紙おむつや生理用品といった紙製品、SKllなどの化粧品、髭剃りのジレット、電子歯ブラシ、プリングルスなどのポテトチップ、アイムスというペットフードなど、多岐に渡るカテゴリーを扱っていました。それらの様々なカテゴリーで、洗剤・消臭やヘアケアで成功したようなイノベーションを定期的に起こせるような仕組みづくりを任されたわけです。

 P&Gイノベーションファクトリーの原型は、米国本社にありました。私は本社に赴き、150年以上に渡る年月を通して同社のイノベーションを牽引してきた仕組みを勉強しました。また、スタンフォード大学の「Design Thinking(デザイン思考)」のワークショップへの参加や、KJ法という創造メソッドを開発された今は亡き川喜田二郎先生から直接その方法を教えてもらうなど、ありがたい体験をさせてもらいました。

 学ばせていただいたイノベーションを起こすメソッドや仕組み、具体的方法論は多岐に渡り様々でしたが、大切なことは一つの同じ流れでした。

Diverge → Converge → Diverge → Converge
(広げる) (収束させる) (広げる) (収束させる)

イノベーションを生み出すためには、情報やデータ、アイデアをできるだけ広げることから始めて、次にその広がった情報やデータ、アイデアを一度収束させます。そして収束した情報やアイデアを改めて広げるプロセスを経て、さらに収束させるという作業を繰り返していくのです。

それぞれのメソッドで、アイデアの出し方などの具体的な方法は違うのですが、イノベーション創造の基本的な流れは、すべて「現状」の進化に制限をかけている見えない障壁に風穴をあけて、新しい風を吹きこみ「制限」を外して、可能性を「Diverge(広げる)」ことから始まります。

 イノベーションとは、革新のことを言います。革命的に新しいことを生み出さなければなりません。そのためには、既存の現状を打ち破ることが必要です。そして既存の現状を打ち破るには、まずは自分たちが無意識のうちに囚われてしまっている「既存の現状」とは何なのかを認識し、「既存の現状」の進化を制限している「常識」のどこかに風穴をあけて、新しい風を吹きこまなければならないのです。

 問題を打破するには、まずは「現状の認識から始める」というプロセスは、PDCAとしての王道であり、多くの企業では現状を常に追いかけて分析も重ねているため、課題はすべて理解できていると思われている方も多いかと思います。

 しかし自分たちを取り巻く「現状」を客観的に把握するのは、実に難しいことです。私たちの多くは、常に現状に留まっていることで、実は「現状」が見えなくなっていることが多いのです。そして、気づかないうちに閉ざされた状況に囚われていることにも気づかず、「現状」や「常識」に甘んじているのです。それでは、「現状」に風穴をあけることはできず、可能性の「Diverge(広げる)」はできません。

 昨今、社外取締役の登用やコンサルタントの起用など、社外の視線を取り入れる企業が増えてきたことは、客観性を積極的に取り入れて、自分たちのおかれた「現状」をしっかりと把握し、「現状」に風穴をあけることの重要性が認識されてきたからだと思います。

現状打破のために、あえて異物を投入する

 P&Gイノベーションファクトリーでは、「現状打破」を目的にわざと異物を投じて、その反応や意見を得ることから始めました。投じられる異物は、消費者からの意見や他のカテゴリーの担当者の意見にはじまり、全く違う業種の成功例や失敗例やトレンドなどでした。

 自分たちが捉えている「現状」を、外の人たちはどのように見るのか。また、自分たちが囚われている「現状」の外側では何が起きているのか。そうした客観的な視点を取り入れるために、あえて異物を投じて「現状の見え方」を揺さぶります。それによって自分たちが気づいていなかった制限を外し、可能性のDiverge(広げる)が狙いです。

 イノベーション創造はDiverge(広げる)から始まるのですが、多くのケースで阻止する大敵は、現状への強い「保身」です。外から客観的な視点や意見、アイデアを紹介しても、客観的な視野を広げようと試みても、「自分のビジネスには関係がない」「それは違うな」「こんな何もわかっていないヤツらの話を聞いても時間の無駄だ」など、自分と違う意見や考えに耳を貸すことができないメンバーは必ずいるものです。特に地位が高く、決定権を持つ人ほど、今までの自分の考え方と違う意見やアイデアに対して批判的な人が多いという点も厄介です。

 しかしそういう頑な人たちも、新しい考え方やアイデアを受け入れる隙や瞬間があり、そのような時はチーム全体のイノベーションへの熱量が高まったものです。

 反対に、常に好奇心をもって、違うものの見方や考え方に対して前のめりで聞き入り、それらに感嘆するメンバーもいて、そういう人たちが出すアイデアはキラキラ光る「イノベーションの卵」になりました。

私自身が一番感銘を受けて、また影響を受けたのは、感度の高いユーザーからの意見やアイデアでした。集まってくださったユーザーの中には、商品やカテゴリーに対する意見だけではなく、テレビCMのストーリーボードや店舗販促のコンセプトなどもつくってもらったのですが、感度の高いユーザーの方々は、そんな無茶ぶりにも真剣に取り組んで、素晴らしいアイデアを出してくださいました。

 もちろんユーザーの案をそのまま使うわけではありません。そのアイデアが生まれた背景を聞き込んで理解することで、潜在的なニーズが見え、「現状」に風穴があいて可能性が広がるヒントとなるのです。

 こういった試みも、「クリエィティブが本業でもない人に、テレビCMや店舗販促などのアイデアが出せるわけがない」という思い込みから、せっかくの「Diverge(広げる)」のチャンスを見過ごす人もいれば、「すごい!」「面白い!」「新しい!」と刺激を受けてアイデアにつなげられる人もいました。

 本業のクリエイターがユーザーのアイデアに刺激を受けて、素晴らしいコンセプトやコピーに生かしてくださったことも何度かありました。それらのアイデアは、ユーザーの潜在意識に響くため、長くビジネス成長に貢献してくれています。

ダイバーシティとは、単に女性やグローバル人材の登用ではない

 本気でイノベーションを起こしたいならば、違う考え方やものの見方をあえて取り入れることが大切です。

 昨今、「Diversity(ダイバーシティ)」の推進が語られる中、その重要性についての議論がなされています。

色々な意見はあるかと思いますが、私はダイバーシティこそイノベーションにとって重要な存在だと思っています。ダイバーシティがなく均一な考え方をする人だけの組織からはイノベーションが生まれにくいのです。

 そしてダイバーシティは、単に女性やグローバル人材の登用を数値で示すといった表面的なことではなく、違う考え方やものの見方を尊重して、進んで耳を傾けるという意識や姿勢、文化であると思います。

 それによって、無意識のうちにがんじがらめに囚われていた「現状」に風穴があき、新しいイノベーションの風が吹くのです。そして、その結果は売上や利益にしっかりと反映されるはずです。

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